福島地方裁判所 昭和29年(行)2号 判決
原告 酒井正夫
被告 国
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は、「被告が別紙目録記載の五名に対しなした司法書士認可処分は無効であることを確認する。被告は原告に対し、右認可の日からこの判決確定に至るまで、毎月金三千円ずつに相当する金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。
「原告は司法書士であるが、被告は、昭和二十五年七月一日以降、別紙目録記載の五名に対し、司法書士法施行規則第二条の審査に基き、司法書士法第四条により司法書士となる認可を与えた。しかし右認定処分は、被告が客観的資料によらず、独自の主観で、故意に、不当な審査をし、前記五名が同法第二条各号に定める資格を有しないのに、これを有資格者とし、これに対してなされたものであるから無効である。なすわち、元来、被告は、同法第二条第一号に掲げる官職を任命する権限を有し、右官職を任命するに足る学力、教養の程度を明白に認識し得る能力を有するのであるから、資料に基き調査すれば、前記五名が無資格者であることを認識し得たはずであるのに、これを有資格者と認めたのは、故意にそのように認めたのであつて、過失に基くものということはできないのみならず、同法第二条第一号に掲げる者の有する学力とは、司法法並びにその手続に関する学力であり、教養とは、社会一般の指導者として恥かしくない教育程度を指すもので、単なる会社員であつたとか、簿記会計学をかじつた等のこととは趣を異にするのであつて、被告はこのことを明白に承知し、且つ、これを調査する権限と能力を有するにかかわらず、これを怠り、前記五名を有資格者と認めたのは不当な審査であるから、これに基きなされた本件認可処分は無効である。そうして、原告は、被告の右不法な司法書士認可処分により、その有資格者としての権利を侵害され、且つ、醜い訴訟の提起を余儀なくされ精神上、義務上多大の損害を受けた。そこで、原告は、本件認可処分が無効であることの確認と、右原告の被つた損害の賠償として、被告に対し、本件認可の日からこの判決確定の日まで、毎月金三千円ずつの慰藉料及び損害金の支払を求める。」と述べた。
被告指定代理人は、「本件司法書士認可処分の無効確認を求める原告の訴を却下する。金員の支払を求める原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、その理由として、
「原告は、福島地方法務局長が別紙目録記載の五名に対しなした本件司法書士認可処分は不当な行政処分であつて無効であると主張し、その確認を求めているが、本件認可処分は原告の権利義務に何ら具体的な法律効果を及ぼすものでなく、従つて右無効確認を求める部分は、当事者間の特定の権利又は法律関係を訴訟物とするものでないから、何ら法律上の利益を有せず、失当たるを免れない。又、原告は、本件司法書士認可処分が不当なため、醜い訴訟を余儀なくされ、精神上、業務上の損害を被つたとして、慰藉料の支払を求めているが、前述のとおり右認可処分は原告の権利義務に何ら具体的な法律効果を及ぼすものでないから、原告の権利を侵害するいわれなく、原告に法律上保護を受くべき損害の存しないことは明らかであるから、原告の慰藉料などの請求は失当である。」と述べた。
三、理 由
原告が司法書士であること及び被告が別紙目録記載の五名に対し司法書士の認可を与えたことは被告の明らかに争わないところである。
先ず原告の右認可処分の無効確認を求める部分について考えるに、一般に行政処分の無効確認を求める訴は、その無効を即時に確定するについて法律上の利益を有する場合に限つて許されるものであることはいうまでもない。そこで、原告が本件無効確認を求めるにつきこの利益を有する者であるかどうかについて判断するに、司法書士法は、司法書士となるための一定の資格を法定し、司法書士業務の執行上種々の義務を科し、行政庁に認可の取消、懲戒の処分を行わせる等の諸規定を設けているのであつて、同法が制定された主たる目的は、司法書士の品位の維持、向上、その業務の適正な執行、改善、向上をはかるにあると解せられ、既に業務を執行している司法書士の保護を目的とするものではないから、これら司法書士は、右法律の規制のため多数の司法書士の認可がなされることにより競業によつて被る不利益を免れる結果となつても、これは、これら司法書士が右法律によつて何等かの権利を取得しているがためではなく、唯右法律が司法書士業務の適正を期する目的からする反射的利益を受けているにすぎない。従つて、仮りに、司法書士認可処分が違法又は不当になされたとしても、それによつて害せられるものは、司法書士法の主たる目的とする司法書士業務の適正な執行一般並びに右法律の反射的利益にすぎず、特定の司法書士の権利又は法律関係に直接の関係を及ぼすものではない。そうすると、司法書士認可処分に対し、他の司法書士は、これが無効確認を求める法律上の利益を有するものではないといわなければならないから、これを求める原告の請求は失当である。
次に、原告の損害の賠償を求める部分について判断するに福島地方法務局長が前記五名の者に対し不法に司法書士の認可を与えたと認めしめる証左がないから、原告の右請求は、その余の判断をするまでもなく失当である。
従つて、原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用の上、主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤規矩三 杉本正雄 松田延雄)
(別紙目録省略)